『昼夜逆転』工作室
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基本通りのステップアップコンバーター

タイトル画像
2021年7月 ※製作は2021年5月
VFD(蛍光表示管)に興味を持ちました。 これを光らせるには小電流(数mA)・高電圧(数十V)の電源が必要で、USB-ACアダプターやモバイルバッテリーから昇圧して作れます。 というわけで、VFDの点灯を目的としたステップアップコンバーター(昇圧型のDC/DCコンバーター)を自作しました。

ステップアップコンバーターの仕組み

回路図
図はステップアップコンバーターの仕組みを表しています。 FETにパルスを与えてオン・オフすると(スイッチング)、V-INが昇圧され、V-OUTに出力されます。 このときV-OUTの電圧を監視し、目的の電圧を維持するよう、スイッチングを制御します。
なぜこの回路で昇圧できるのか。原理は解説サイトを参照してください。 例えば TOREX「DC/DCコンバータ回路設計ガイド」内、「DC/DCコンバータの基本動作原理」。

MT3608モジュール

図1は上述の、ステップアップコンバーターの仕組みを表した図です。この中でFETのスイッチングと電圧監視をまとめた電源ICがあります。 例えばMT3608を使用したモジュールがAmazonやAliExpressで入手できます。

図2はMT3608のデータシートに掲載されているアプリケーションの概略です。抵抗比によって出力電圧が設定できます。 MT3608はA点(FB:feedback)が0.6VとなるようにB点(V-OUT)の電圧を調整する動作をします。 換言すれば、V-OUTを抵抗で分圧してFBが0.6Vとなるように制御します。 従ってFBとGNDの間に入れる抵抗を固定値にし(R)、他方の抵抗を可変にすれば(VR)、感覚的な操作で出力電圧が設定できます。
※VRの変化量と出力電圧の変化量が比例するので調整しやすい。
なおVRの値が小さいとき、抵抗比の計算上はV-OUTがV-IN未満になりますが、実際には経路上の部品の電圧降下分より下がることはありません。
※そのときV-INからV-OUTまで直流が流れ続けるとしたらLが焼ける可能性はある。

回路図
ところが通販で入手できるMT3608モジュールのうち、図3aのような回路になっているものがあります。 この回路ではVR(多回転ボリューム)を変化させるとFB-GND間の抵抗値も変化してしまいます。 そうするとVRの変化量と出力電圧の変化量の関係が非線形となり(感覚的に分かりにくい)、出力電圧の設定がやりにくくなります。
そこで図3bのように、VRの調整点とR側の端点をショートします。こうすると図2の回路と等価になります。

MT3608モジュール
MT3608モジュール
 
MT3608モジュール
ショートさせる箇所
 
ステップアップコンバータの様子
よくある形のVR
 
ステップアップコンバータの様子
【下】改造例

改造例

多回転ボリュームが使いにくいので、よくある形のボリュームに交換しました。また、小型電圧計を取り付けました。
この回路において小型電圧計は2線タイプではなく3線タイプの方が向いています。 2線タイプは測定部位から電源を取るのでMT3608モジュールに負荷がかかります。特に7セグ点灯のために数十mA必要とするのが痛いです。 3線タイプは測定部位とは無関係に電源を取るのでMT3608モジュールに負荷がかかりません。

自作する

MT3608モジュールは実験などで取り敢えず使いたいというときに便利です。 しかし工作に利用する場合、入手性や部品レイアウトの都合から既製品が使いにくいこともあります。 今回、動作原理の理解を深めることも兼ねてステップアップコンバーターを自作しました。

回路図

回路図
FETのスイッチングと電圧監視にマイコンを使います。PWMを開始/停止し、R2の電位をVCC/2[V]に維持するよう制御します。 R1,R2,VR1の値でVoutの範囲が決まります。VFDの工作には20~30V必要なので、ここではそうなるよう抵抗値を決めています。 またVrefをVCC/2としているので、VCCの値によってもVoutの範囲が変わります。
R1は無くても動作しますがVoutの範囲を決めるのに一役買っています。
出力側のコンデンサーC2,C3の耐圧はVoutの最大値を考慮して決めます。

【参考】 抵抗値と出力電圧
R1 22kΩ 10kΩ 47kΩ 47kΩ 10kΩ 100kΩ
VR1 100kΩ 100kΩ 50kΩ 50kΩ 50kΩ 50kΩ
R2 22kΩ 10kΩ 10kΩ 10kΩ 10kΩ 10kΩ
Vref 4.5V 2.5V 2.5V 2.2V 3.5V 2.5V
Vout 9~29V 5~30V 14~26V 12~23V 7~24V 27~40V

(VoutはVin=5Vとしたときの理論値)

配線図

配線図
ATtiny85を使用する場合
 
配線図
ATtiny10を使用する場合

プログラム

ダウンロード StepupConverter.zip(プロジェクト一式)
開発環境: Windows10, AtmelStudio7

作成中の様子

DC/DCの様子
ATtiny85で動作確認
 
DC/DCの様子
ATtiny10で動作確認
 
DC/DCの様子
下限7V
 
DC/DCの様子
上限24V

完成

完成

◆ ◆ ◆

ハード的には抵抗値を決めるのが面倒でした。手持ちのVR(100kΩと50kΩ)を活用したくて、そこからR1,R2,Vrefを決めました。 ソフト的にはPWM制御が案外難しかったです。タイマー割り込みではなくメインループ内でADCを動かし、PWMを止めたり再開したりしています。 そのため処理手順が適切でないとVoutの上限が設計の80%ほどしか出なかったりします。
ステップアップコンバーターを自作してみて、このようなことが分かりました。 1つのマイコンでVFD点灯も昇圧もやろうとするとき、今回得た知見が役に立ちそうです。