ミニモーターギヤボックスとモーター制御
2010年12月 ※2013/02 ページデザイン変更 とあるモノを見て、モーターを使った工作をやることにしました。 電子工作で使いやすそうなモーター+ギヤボックスを見付けたので紹介します。 実際の製作でどう使うのか、制御回路とトランジスタ選びについて検討します。 モーター(ギヤボックス)の回転/停止を実験しています。 |
モーターを制御するには |
趣味の模型工作や、車、戦車、船のプラモデルなどでモーターといえば、お馴染みマブチのモーターでしょう。自分はラジコンをやっていた少年時代にRS-540SH(ごーよん)を使っていました。 ※約40年ぶりにパッケージデザインが変わるそうです(案内記事)。 電子工作でモーターを正転、逆転、スピード変更、停止といった形で制御するにはマイコン(マイクロ・コントローラ)が便利です。まさに制御(コントロール)するためのICです。 ところで、LEDを点灯させるには十数mAの電流で十分でした。それに比べモーターを動かすにはもっと大きな電流が必要です。例えばマブチ工作用モーターでは500mA〜1Aが必要です。 【参考】マブチ工作用モーター性能一覧 マイコンはこれほど大きな電流を出力することができないので、トランジスタ(の電流を増幅する働き)を利用します。このときトランジスタは小信号用のものではなく、コレクタ電流が1Aやら5Aやら流せるパワートランジスタを使います。 ※パワートランジスタのデータシートの用途欄には、モータードライブ用、ハンマードライブ用、ソレノイドドライブ用などと書いてあります。コイルの力(電磁石)で動くもの向けということです。電力増幅用とも書いてあります。パワー=電力。 トランジスタが先か、モーターが先か パワーのあるモーターを動かすことを目的としたトランジスタは、概してデカく、全体的なスペックも高く、「ちょっと電子工作に使う」といった規模には見えません。もっと小規模で、模型用モーターを動かすのに適したトランジスタ選びはできないか? そもそも、もっと小さな電流で動いて、その割りにパワーも出せるモーターがあれば… 単純に小さな電流で動くモーターにはソーラーモーターや、携帯電話のバイブレーション用のものがあります。しかしこれらにはパワーがありません。例えば自動車模型なら、少なくともタイヤ(モーターを載せた車体自身)を動かすだけのパワーが出せないと意味がありません。最初から小型・軽量・パワフル目的で作られた模型用モーターもありますが、高価ですし、どこでも買えるほどは見かけません。もっと気軽に使えるモーターが欲しいです。 今回、ある製作のために、ゆっくり回転し、トルクが大きく(パワフル)、小型のモーターを探しました。ギヤボックスの自作は辛いので、これも一緒に見つかると助かります。 ※とりあえず「マブチ工作用モーターの一番小さいFA-130+ギヤボックス」は考えましたが。 |
ミニモーターギヤボックス | ||||
模型のタミヤから都合の良さそうなモーターが発売されていました。マブチFA-130よりも小さく、ギヤボックスとセットのパッケージで、価格も手頃です。シリーズで3タイプあり、今回の目的には「低速(4速)」が合いそうです。 「タミヤ ミニモーター低速ギヤボックス (4速)」 メーカーサイト 製品案内ページはこちら 同シリーズ ミニモーター標準ギヤボックス (8速) ミニモーター多段ギヤボックス(12速)
ミニモーターギヤボックスの適正電圧は3V。トルクとスピードはパッケージ裏面の一覧表で。 そのギヤ比一覧表から、モーター生身の状態で回転数は6300rpmと分かります。それ以外のスペックは不明です。電子工作で使うにあたり、最大負荷時に流れる電流が知りたいところです。それが分かればトランジスタを決めることができます。スペックを探る手掛かりはモーター表面の印刷「STANDARD MOTOR」でした。メーカー名です。 →DCモーターの製品案内ページ (右端の「Designation」で型番の見方が分かる) →FP030-KNがないのでFP030-Fシリーズのページへ。 2011/05 変更 STANDARD MOTOR社 目的の「11160」はありませんが、「12120」の仕様が参考になるかもしれません。線の太さは同じくらいとして、巻き数が120→160に増えているのでトルクが大きくなります。ギヤボックスに組み込んで3V駆動すると約60mA流れたので(ギヤ比314.9の場合)、電流に関しては「12120」の6〜7割の大きさが目安になるでしょうか(?) ※当てずっぽう。単純計算とはいかない。 【補足】 この記事を書き始めたころ、ミニモーターが単体で発売されました。タミヤ ミニモーターセット。 ミニモーターギヤボックスのものより少しパワフルなようです。 ミニモーターギヤボックスの幅 シャフト長60mm。円形のクランクをはめて幅62mm。タミヤの他のギヤボックスシリーズはシャフト長100mmなので、それよりコンパクトです。円形クランクの付け根からギヤボックス本体まで7mmほど隙間があります(※)。全体の幅をもっと小さくしたい場合、シャフト長50mmまでは縮められそうです(シャフトを自力で切断加工)。 ※参考:下記実験台2の★印の写真。シャフトが直接見えている部分の長さが左右それぞれ約7mmです。 動作テスト ミニモーターのスペックがなんとなく分かったところで動作テストをしてみます。実際の製作ではこんな使い方をするだろうという形で、実験台を2種類組み立てました。様子を見るだけなのでまだ自動制御ではなく、手動でスイッチ・オン/オフします。ギヤ比は314.9(20rpm)にセット、電源は3Vです。 1.テーブルが上下運動する実験台。 撮影時は電子回路がありましたが、実験では電子回路を使っていません。 物を載せない状態で約60mA流れます。※テスターの読み。以下同様。 約240gの物体を載せた状態では、最下点からの押し上げ時に約120mA流れました。 テーブルを押さえ込んで動きを止めたとき、約175mA流れました。※何回か試したうちの最大値。 ちなみに「約240g」の正体はニンテンドーDSLite+ソフトのカートリッジ。 2.首振り運動する実験台。 動作の様子をこのページの後半で紹介しています(動画)。 ★シャフトと隙間 アーム上端の横棒に物体を取り付けて動かすことを想定しています。アームの長さ(上下端のネジ止め箇所の間隔)は3cmです。こちらも240gの物体を載せた状態で動作しました。ただし、これより軽くても大きな物体を取り付けた場合、モーターが動かなくなることが考えられます。 ※アームを長くするのと同じことで、アームの支点から物体の重心が遠のく。するとトルク不足で物体が動かせなくなる。 |
電子工作でモーターを使う(基本回路) | ||||
ミニモーターギヤボックスを使い、モーターを電子制御するための回路をいくつか検討します。 以降全て、「タミヤ ミニモーター低速ギヤボックス(4速)/ギヤ比 314.9(20rpm)」のこととします。 電源に乾電池2本(3V)を想定し、実験中は3.0Vの定電圧源を使用します。 ※マブチ工作用モーター(FA-130など)を使う場合でも基本的に同じ話なので参考になると思います。 目的の動作
モーター制御の基本回路 電気的にスイッチ・オン/オフするとなれば、ここでトランジスタが出てきます。
また、環流ダイオードは逆回復時間が短いダイオードでないと意味がありません。具体的にはファストリカバリ・ダイオード(FRD)かショットキバリア・ダイオード(SBD)を使います。1A程度が目安。 ※環流ダイオードについて詳しくは「フリーホイール ダイオード」で検索してください。 コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)を考慮する 最初の図、機械的スイッチの回路で電流は、「+V → モーター → GND」と流れます。 モーターの両端には電源電圧がそのまま掛かります。Vm = +V。 一方、モーター制御の基本回路では、「+V → モーター → トランジスタ → GND」と流れます。 トランジスタのコレクタ-エミッタ間の電圧降下があるため、モーターの両端に掛かる電圧は電源電圧より小さくなります。Vm < +V。※より詳しくは Vm = +V - Vce ベース電流を大きくするとコレクタ電流も大きくなり、それにつれてコレクタ-エミッタ間の電圧降下は小さくなります。しかし0Vにはなりません。そのとき(限界)の電圧を、コレクタ-エミッタ間飽和電圧と言います。Vce(sat) ※sat…saturation/飽和 トランジスタを使うとき、通常はコレクタ電流を多く流したいのでベース電流をある程度大きくします。従ってコレクタ-エミッタ間の電圧降下を飽和電圧Vce(sat)で考えると、モーターに掛かる電圧は、Vm = +V - Vce(sat)。 電源電圧が9Vやら24Vやら大きければ、Vce(sat)分を差し引いてもモーターに適正電圧を掛けられます。しかし今回目的とする回路は電源電圧が3Vと、モーターの適正電圧ギリギリなのでトランジスタはVce(sat)が極力小さいものを選ぶ必要があります。 あるいはVce(sat)分の電圧降下を見越して、電源を3.3VのACアダプタにしたり、充電池3本(3.6V)にするという方法もあります。しかしここでは乾電池2本で動かす前提なので、+V = 3V で考えます。 モーターの適正電圧について モーターには「適正電圧」というスペックがあります。モーターが性能を発揮するのに最適な電圧のことです。適正電圧より低い電圧で使ってもモーターが壊れるわけではありません。ただ、性能(トルクやスピード)が十分発揮できないということです。電圧が低すぎるとモーターは回りません。 逆に、適正電圧より高い電圧で使ってはいけません。高過ぎるとモーターは焼けて壊れます。 ※工作用モーターで10%くらい高い電圧で使っても壊れませんが、”適正”電圧ではありません。 |
電子工作でモーターを使う(回路例1) | ||||||||||||||||||||||
モーターをマイコンで制御する マイコンを使うと少ない部品で目的の回路が作れます。
マイコンを使う利点は部品数が少なくて済むことと、動作内容を柔軟に決められることです。余っているピンを設定スイッチのように使い、動作時間を10秒/30秒/1分から選択できるようにしたり、スイッチを一度押したら回転、もう一度押したら停止、のようにすることができます。 ただ、マイコンを利用するにはマイコンの開発環境が必要で、ソフトウェア開発もしなければなりません。材料を揃えてハンダ付けしただけでは回路が動作しないので、マイコン未経験者にはお勧めしにくい方法です。 ※モーターのためならマイコンを習得するゼ!という方は是非挑戦してください! モーターをタイマーICで制御する マイコンを使わなくても目的の回路は組めます。ただし、動作内容の柔軟性は多少落ちます。 このサイトでは「ねんどろいど ドロッセル 自動的に「便利ね」」でタイマーIC LMC555を使い、LEDが一定時間点灯したあと自動的に消灯する、という工作をしました。それと同じ回路が使えます。
柔軟性については動作時間が変更できます。例えば1MΩの抵抗(R2)に1MΩの可変抵抗を直列につなぎ、約10〜25秒の範囲で設定でるようになります。 ベース電流の制限抵抗(R3)を変えてトランジスタ/モーターを測定
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電子工作でモーターを使う(回路例2) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
自動停止に主眼を置いたシンプルな回路 今回の目的の要は「一定時間で自動的に停止する」ことです。「一定時間」を正確に計るなら、マイコンやタイマーICを使った高度な制御が向いています。およその時間が決まっていればよいだけなら、シンプルな回路もあります。 図は、モーターの基本回路にスイッチ(SW)とコンデンサ(C)を追加したものです。
この回路の欠点は、モーターの動作時間やトルクを確保する調整が難しいことです。
まずコンデンサ(C)を大容量にし、たっぷり充電できるようにします。その上でベース電流の制限抵抗(R)で電流を絞り、放電時間を長引かせます。ところがベース電流を絞るとコレクタに流れる電流も小さくなり、モーターのトルクが弱くなってしまいます。またはモーターが動きません。ベース電流を絞りすぎても困るのです。 第二にトルク。Icがある程度大きく、hfeが大きく、Vce(sat)が小さいトランジスタを使います。 Icが大きい… 基本的にモーターには大きな電流が流れます。コレクタ電流はmA単位ではなくA単位で考えます。しかしミニモーターは必要な電流が少ない方なので、1Aあれば十分な気がします。 hfeが大きい… この回路は小さなベース電流でもモーターを動かしたいというものなので、電流の増幅率は大きい方が有利です。コンデンサの放電の最後まで電流を活用できるようにします。 Vce(sat)が小さい… 電源電圧は3V、モーターの適正電圧も3V。電圧降下たるVce(sat)は0Vに近いほどよいです。パワートランジスタの中にはVce(sat)が小さいことを売りにしている品種があるので、それを選びます。 実験しながら部品を決定する まず動かしてみて、動作時間や動きの様子から各部品の値を調整していくことにします。 とりあえずこの回路で動かしてみた、という確認動画はこちら。
この実験で動作時間の見当は付いたので、トルクが出せるようトランジスタを検討します。上記第二の内容について次のような条件でトランジスタを探し、3種類を購入しました。※比較検討したトランジスタの一覧をこのページの最後に掲載しました。
動作実験1 実験台2(動画の実験台)で約240gの物体を載せ、回転数(首振り回数)と動作時間を見る。
hfeのex.…現物を何個かテスターで測定した値。 外力による停止時とは…クランクアームを押さえつけてモーターを停止させたとき。 2SD2352/2SC3964はどちらもhfeが1000程度あり、Vce(sat)も極めて小さく、この結果でまずまずなのだと思います。それに比べて2SC2655-Yのhfeは断然小さく、この回路には適していません。 動作実験2 2SC2655-Yをダーリントン接続して「動作実験1」と同内容の実験。
hfeのex.…現物を何個かテスターで測定した値。 外力による停止時とは…クランクアームを押さえつけてモーターを停止させたとき。 長時間動作することができました。ついでに試したことを以下に。 ・コンデンサ(C)が物理的に大きいのでC=1000uFに変更→7〜8回転で停止。約25秒。 ・それに加え、ベース電流を絞るためR1=100kΩに変更→9〜10回転で停止。約30秒。 なんだか良さそうな結果が出た気がしますが、ダーリントン接続による落とし穴があります。 トランジスタ部分の電圧降下が大きくなる → Vmが小さくなる → トルクが小さくなる。 動作実験1の回路(トランジスタ1個)では、モーターの両端に掛かる電圧は2.7Vありました。 動作実験2の回路(2個ダーリントン接続)だと2.2Vしかありません。 0.5Vの差は大きく、動作音の違いが分かるほどです。今回の目的において、どちらの回路を採用するかとなったら、動作実験1の回路の方が適していると思います。 |
電子工作でモーターを使う(まとめ) |
基本的なモーター制御回路に合わせたトランジスタ選びのまとめ。 モーターに負荷をかけたときに流れる電流が、コレクタ電流Icの絶対最大定格を超えてはいけません。ミニモーターを使うとき、Icが1A以上のトランジスタなら大丈夫でしょう。 ※実験から得た経験値。 ※参考:タミヤミニモーターセットのミニモーターは、適正電圧(3V)・適正負荷時の消費電流が280mA。 マイコンやタイマーICを使った回路(回路例1)の場合、hfeが100〜200あればミニモーターに十分な電流が流せます。この点でトランジスタ選びの幅は広いと言えます。hfeよりも、コレクタ-エミッタ間飽和電圧Vce(sat)が選択ポイントになります。モーターの適正電圧と電源電圧がほとんど同じ場合はVce(sat)が極力小さいものを選びます。例えばこの記事で使用した2SD2352/2SC3964/2SC2655-Yです。 モーターの適正電圧に対して電源電圧が1.5V以上高ければ、下の一覧表にあるトランジスタのどれでもよさそうです。少しでも低消費電力化するなら、hfeが数千〜数万もあるようなトランジスタ(ダーリントントランジスタ)を選び、ベース電流を絞って使うというのはどうでしょう。 コンデンサの放電任せというアイデアだった回路(回路例2)の場合、ベース電流を絞って使うからにはhfeの大きさが選択ポイントになります。そしてこちらの回路でも、モーターの適正電圧と電源電圧がほとんど同じ場合はVce(sat)が極力小さくなければいけません。例としてこの記事では2SD2352/2SC3964を使いました。 電源電圧が十分高ければダーリントン接続でも構わないと思います。が、手持ちの部品で何とかしたいということでなければ、ダーリントントランジスタを1個用意する方がスマートだと思います。 |
型番 | Ic | hfe (ex.)は現物を購入後に 何個かテスターで測定した値 |
Vce(sat) Typ. - Max |
備考 秋葉原でよく行く店別。価格は2010/12現在 |
2SD1415A | 7A | 2000 - 15000 | 0.9 - 1.5V | 千石:100円/秋月:5個300円 |
2SD2206 | 2A | 2000 - _ | _ - 1.5V | 千石:50円 |
2SD2257 | 3A | 2000 - _ | _ - 1.5V | 千石:80円 |
2SD2352 | 2A | 800 - 3200 (ex.1180) | 0.3 - 1.0V | 千石:70円 |
2SD2536 | 2A | 2000 - _ | _ - 1.2V | 千石:50円 |
2SC3964 | 2A | 500 - _ (ex.1010〜1030) | 0.3 - 0.5V | 秋月:8個200円 |
2SD2012 | 3A | 100 - 320 | 0.4 - 1.0V | 秋月:40円 |
2SC2655-Y | 2A | 120 - 240 (ex.140〜180) | _ - 0.5V | 鈴商:20円(通販は5個100円) |
2SC1815-GR | 150mA | 100 | 0.1 - 0.25V | 参考 |
千石…千石電商 / 秋月…秋月電子通商 |
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なぜモーターの工作をやろうとしたかというと…↓コレです。
動画で紹介した「首振り実験台」は、コレを取り付けるために作りました。 さて、発売は遥か先。その頃になったら完成動画を撮影する予定です。 クランクアームと支柱をつなぐジョイントも作らないと。 |
(C) 『昼夜逆転』工作室 | [トップページへ戻る] |