LM3914/LM3915/LM3916と両電源、仮想GNDとレールスプリッタ
2010年3月 ※2011/08 記事を改訂 ヘッドホンアンプを作ってみようと思った。 ただそれだけ作っても面白くないので、このサイトでお馴染みLM3915のVUメータを組み合わせることにした。さらにイコライザも付ける。どれも部品は揃っている。 構成を考えてみて困った。それぞれのICで要求する電圧が全然違う。 OPアンプは+-2〜+-18V、LM3915は3〜25V、イコライザは7.5〜14V。 乾電池ならどうやるか、ACアダプタなら何Vが何個必要か。1個でできるか。 そんなことでやった実験をメモ代わりにまとめた。4本立てでお届け。 ・LM3915 「V-」の理由(ワケ) ・仮想GNDとレールスプリッタ ・OPアンプで作るレールスプリッタ ・GNDと仮想GNDについて 関連記事 ディスプレイドライバ LM3914/LM3915/LM3916について PCオーディオレベルメーターの製作 キーワード LM3914, LM3915, LM3916, LM358N, NJM4580DD, TLE2426, 単電源、両電源、正負電源、負電圧、仮想GND、Virtual Ground, OPアンプ、ボルテージフォロア、レールスプリッタ、Rail Splitter |
LM3915 「V-」の理由(ワケ) |
LM3914/LM3915/LM3916(以下、代表してLM3915と記述する)の電源端子「V+」と「V-」。 V+はいいとして、なぜもう一方の表記が「GND」ではないのか? LM3915はOPアンプと組み合わせて使うことが多い。OPアンプは基本的に両電源で動作する。 ヘッドホンアンプの製作で見かける、乾電池から両電源と仮想GNDを作り出す方法は手軽だ。 そこにLM3915でVUメータを加えるなら、OPアンプもろとも両電源で動かせると都合がよい。 それでふと思った。LM3915の「V-」端子は、単純に負電源の入力端子に違いない。 なぜだか知らないが、データシートの豊富な回路例の中に負電源を使った例は 自分で確かめるしかない。以下、それを確認した実験の様子。 2010/03 追記(*)…LM3914のデータシートに1つありました。「Zero-Center Meter, 20-Segment」 LM3915にもありました。「Precision Null Meter」 自分、どこ見てたんでしょうね(汗) 【実験】 USBの5Vを抵抗で分圧し、+-2.5Vを得て、両電源動作のOPアンプとLM3915へ供給する。 OPアンプの出力を変化させ、LM3915のLEDが点灯する様子を観察する。 回路について 乾電池で動作するヘッドホンアンプ+VUメータをイメージした回路を組む。 実用的には乾電池(9V)を想定しているが、実験ではUSB(5V)からの給電。 これを分圧する抵抗(半固定抵抗)の値は10kΩ程度で適当に。 測定を簡単にするため、増幅する信号は音声ではなく直流電源(+2.5V)を使った。 OPアンプは非反転増幅回路で使用。接地1kΩ、帰還3kΩ →ゲイン = 1+3k/1k = 4倍 入力0.25Vのとき出力1.0Vとなることを確認して実験開始。 USBの5Vを抵抗で分圧した両電源の電圧は、 V+ = +2.49V V- = -2.48V 参考: LM3915のV-ピンを仮想GNDに接続したところ(2.4Vで動作させるということ)、LEDは暗くなるもののLM3915は動作した。ただし2.4Vは定格(3V〜25V)の範囲外。あくまで試しに行ったものである。 実験1 OPアンプ:NJM4580DD(両電源を必要とするOPアンプ。定格 +-2V〜+-18V) 入力を上げて行ったときの最大出力は1.77V 参考: データシートの特性グラフ「最大出力電圧対電源電圧特性例」では負荷抵抗2kΩとして、 V+- = +-2.5V動作時、最大出力1.5V〜2.0Vくらい。グラフに目盛りが振ってないのでアバウト。 実験2 OPアンプ:LM358N(単電源ではなく両電源で動作させる) 入力を上げて行ったときの最大出力は1.15V 参考: データシートでは最大出力 = V+ - 1.5V 実測値を当てはめると 2.49V - 1.5V = 0.99V ←→ 1.15V まぁこんなもんで。 【結果】 LM3915のSignal-inに入力される電圧を0Vから徐々に上げていくと、約1.15VでLED10が点灯した(DOTモード/BARモードによらず)。1.2Vフルスケールの回路なのでまずまずの値。 LEDが点灯する様子から判断してLM3915は正常に動作しているようである。 参考: 「約」1.15Vの理由…隣のLEDが点灯し始めるとき、電圧に応じて徐々に明るくなる。LED10がLED9と同じ明るさに見えたときの電圧を測定した。0.05V分の明るさの差は目では分からない。 【結論】 LM3915は両電源でも動作する。V+とV-の電位差が3〜25Vなら動作するものと思われる。 LM3915の電圧のルールは複雑 (「ディスプレイドライバ LM3914/LM3915/LM3916について」を参照) LM3915の電圧のルールは複雑である。今回の実験回路だと仮想GNDとV-のどちらを基準に考えればよいか曖昧な点があり、条件を満たしていると言えるかどうか微妙なところがある。 実際、今回の実験でSignal-inに1.2Vを大きく超える信号(V+の値2.4V)を入力しても、DOTモードでLED10が単独で点灯する状態にできなかった。直前のLED9点灯が残る。 こういった現象を回避するなら、やはり単電源で使った方が間違いは少ないだろう。 RLOとGNDの接続について LM3915のデータシートで基本回路を見ると、Signal-inに入力する信号のGNDはRLO端子(ピン4)につなぐことになっている。豊富な回路例でも、どれもRLOはGNDに接続されている。 しかし今回の実験回路のように両電源で動作させるときは注意が必要である。 LM3915を単電源で動作させるならV-はGNDであり、RLOと同電位なので(*)、互いに接続して構わない。V- = RLO = GND である。 一方、今回の実験回路でV-は負電源入力であり、RLOの電位と異なるので、互いを接続してはならない。V- = 負電源入力, RLO = 入力信号のGND である(*)。 (*)…RLOはあくまでSignal-inの下限値を決めるための端子であり、即GND電位を意味するわけではない。しかし大抵のアプリケーションでは「何V以下をカットする」といった使い方をしないので、結果的にRLO = GNDと設定することになる。 |
OPアンプで作るレールスプリッタ |
抵抗分圧だけで作る両電源と、ボルテージフォロアを取り入れた両電源の違いについて。 OPアンプの簡単な説明 OPアンプには2つの入力端子(Vin+,Vin-)と1つの出力端子(Vout)がある。 OPアンプはVin+とVin-の大きさを比較し、その差を増幅してVoutに出力する。 OPアンプは基本的に正負両電源で動作するICである。 入力の+-は正電圧・負電圧を入れるという意味ではない。両方とも正負自由に入力してよい。 念のため… OPアンプ→オペアンプと読む。Operation Amplifier 演算増幅器。 Vout = A(Vin+ - Vin-) A:裸利得。OPアンプが素の状態で持つ増幅度。何万倍という値。 式の意味: 簡単のためVin+,Vin-とも正電圧とする。このとき、Vin+ > Vin- ならVoutには正電圧が出力され、 Vin+ < Vin- なら負電圧が出力される。ちょうど入力端子の+-が出力の極性を表す。 増幅度自体は何万倍だが、現実として最大出力はおよそ電源電圧まで。 OPアンプには「大小比較して差を増幅する」という性質を使った様々な応用回路がある。 その中で、VoutをVin-に直結した回路をボルテージフォロアという。 ボルテージフォロアの動作 電圧VをOPアンプのVin+へ入力する。そのままVoutに出力される。 Voutは入力側へ戻ってVin-へ入力される。この時点でVin+ = Vin- = Vout = Vである。 Vin+とVin-に差がないのでOPアンプは何も増幅せず、このままの状態で安定する。 いま入力電圧が変動して、Vが直前より大きいVhiになったとする。Vin+ > Vin-となる。 →(1)差が増幅され、正電圧として出力され、Voutの電圧が上がる。 →(2)VoutはVin-へ入力され、Vin-は直前より大きくなる。Vin+の値Vhiに追いつこうとする形。 →(3)Vin+とVin-が比較され、まだ差があれば(1)へ。 Vin+とVin-の差がなくなったとき、Vin+ = Vin- = Vout = Vhiで安定する。 逆に、Vが直前より小さいVloになったとする。Vin+ < Vin-となる。 →(1)差が増幅され、負電圧として出力され、Voutの電圧が下がる。 →(2)VoutはVin-へ入力され、Vin-は直前より小さくなる。Vin+の値Vloに追いつこうとする形。 →(3)Vin+とVin-が比較され、まだ差があれば(1)へ。 Vin+とVin-の差がなくなったとき、Vin+ = Vin- = Vout = Vloで安定する。 ボルテージフォロアにする意味 結局、Vin+の値が大小どちらに変動してもVoutは追随して同じ値になる。 あたかもVin+とVoutが直接1本の線でつながっているかのように見える。 じゃぁわざわざボルテージフォロアを使う意味って何? ボルテージフォロアには「インピーダンスを変換する」という特徴がある。 もしOPアンプなしでVin+とVoutが直接配線されているなら、Voutの先に接続した回路や測定機器のインピーダンスがVin+に影響し、本来のVoutの値が変化してしまう。 一方、ボルテージフォロアでは、Vin+側のインピーダンスが変換され、Vout側の影響を受けないようになり、Voutの値が保たれる。これがボルテージフォロアを使う理由。 参考サイト:なひたふ電子情報→電子回路の豆知識 レールスプリッタに利用する ボルテージフォロアの特徴が、レールスプリッタを作る上で仮想GNDの安定化に役立つ。なお、ボルテージフォロアの配線やOPアンプ自体に、電圧を2分したり両電源を生成するような働きはない。あくまで抵抗分圧と組み合わせてレールスプリッタとなるのである。 ボルテージフォロアで使用できないOPアンプもあるようなのでデータシートで確認すること。 「ゲインを1より大きくすること」などと書かれていたらボルテージフォロアで使用できない。OPアンプが発振したり誤動作してしまうようだ。 ボルテージフォロアがない場合 単電源(V)を抵抗で分圧して正電源(+V/2)、負電源(-V/2)、仮想GNDを作る。 回路をつながないとき、仮想GNDに対する+V/2と-V/2の大きさ(絶対値)は等しい。 ※以下、この状態を「正負電源のバランスが取れている」と呼ぶことにする。 何らかの回路を正電源(負電源でも)につなぐと分圧比が変わってしまい(別の抵抗を並列接続したことになるので)、仮想GNDの電位が変化する。その結果、正負電源のバランスが崩れてしまう。 「仮想GNDとレールスプリッタ」の実験の測定値、V+ = +2.06V, V- = -2.77V のこと。 ボルテージフォロアがある場合 単電源を分圧して得たV/2をOPアンプの+端子に入力し、出力を仮想GNDとする。 回路をつながないとき、正負電源のバランスは取れている。 何らかの回路を正電源(負電源でも)につないだときはどうなるか? ボルテージフォロアによってOPアンプを境に回路が分離されているので、分圧用の抵抗に別の抵抗を並列接続したことにはならない。よって、分圧比は変わらない。 その結果、正負電源のバランスは取れたままである。(!) ここで仮に、接続した回路の影響で単電源の電位Vが変動すると(V')、「ボルテージフォロアの動作」の説明通り仮想GNDはV'/2の電位に定まる。やっぱり正負電源のバランスは取れていることになる。ただし、正負電源の値そのものは変化している(+-V/2 → +-V'/2)。 |
GNDと仮想GNDについて |
記事中では割としつこく「仮想GND」と書いている。GNDとは意味が違うことを明示するつもりで。 GNDは、いわば絶対的な0Vである電位。仮想GNDは文字通り仮の基準電位。GNDから見ればある電位を持つんだけど、でもそこを基準にしますよ、という意味。 9Vの乾電池は -極が0V(GND)、+極が9V。 これを分圧して+-4.5Vの両電源を作ったと言ったら、じゃぁ何に対して+4.5Vなのか-4.5Vなのか。 「電池の真ん中」…? 上から何センチとかいう話じゃないよねぇ。 (図1) ※以下、図は全て考え方を示すものである。 電池から見れば正電源+4.5Vは電池の9Vのことであり、負電源-4.5Vは電池の0Vのことである。 +-4.5Vの真ん中(0Vと考えたい点)は電池で言えば4.5Vの電位である。だけど一応正負に分けたことになってるから、便宜上そこを基準の0Vにしましょうよと。これが仮想GNDである。 要するに見方、考え方の話。抵抗を付けようとも9Vの電池は9Vの電池。それは変わらない。 電池のGNDから見た仮想GNDの電位はすなわちbias(バイアス)。バイアスとは「下駄を履かせる」くらいの意味。 (図2) 電池1つを共有して2つの回路を組んだとする。1つは電池を単電源として使った回路A。もう1つは電池を両電源(+-4.5Vと仮想GND)として使った回路B。 この2つが電池以外に接点のない独立した回路なら、この構成は問題ない。 しかし何か信号をやりとりする必要が出てきて、互いの回路をつなぐことになったときは注意。 (図3) 回路AのGNDと回路Bの仮想GNDをつないでしまうと、回路Bの-4.5V側の回路はパーになる。 回路図でGNDと仮想GNDの区別が曖昧だったりすると、こういう失敗が起こる。 (図4) 問題解決には電池が2個必要で、回路Aと回路Bそれぞれ別の電池で動作させることになる。 そしてまた注意として、このとき電池の-極同士をつないではいけない。あくまでそれぞれの回路の基準電位とした点をつなぐのである。すなわち、回路AのGNDと回路Bの仮想GNDを、である。 (図5) どうしても1つの電池でやるというなら、こんな方法はどうだろう。 例えば9Vを1:1:1の抵抗比で分けて-3V,仮想GND,+3V,+6Vを作りだし、回路Aは+6Vで、回路Bは+-3Vで動かす。これなら回路Aと回路Bは共に仮想GNDを基準電位としているので、そのまま信号をやりとりできる。回路Aは、もはや電池を単電源と見る回路ではない。 でもやっぱり 何が何でも電池1個でやらねばならぬ、という事情がなければ、回路に合わせて単電源と両電源を個別に用意した方がよいと思う。仮想GNDを見誤ったり、望みの電圧が抵抗分圧で上手く作れなかったり、といった困りごとがなくなる。 |
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長い長い。何がメモ代わりだ。 両電源のOPアンプ、単電源から両電源を得る方法と仮想GND、電圧の安定化、 チャージポンプによる負電圧生成など、これまであまり馴染みがなかった技術や 部品のことを一度に調べた。大体理解できたと思う。つもり。 |
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